当院に2月26日に初診で来られたF夫婦。話を聞くと16年前、神戸に住んでいたが震災にやられ、家も壊滅。逃げるように大分は別府に移り住んだ。湯治生活に入ったのも、御主人がひどいPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされたからである。やっと16年経って治まってきたため、今度は道後の湯を求めて今年松山の地に引っ越してきた。当院を近くの公園に居た見知らぬ人から紹介されてやってきた仲の良い夫婦である。私はF氏の詳しい経緯を聞き「どうかゆっくり松山で静養して下さい」と慰めた。処方も行った。そしてリハビリにも体をふりしぼって通い始めた。それから翌月。何と3月11日の大地震。忘れかけていたあの記憶、体感がTVを見るたびによみがえって、再びF氏にPTSDが再燃してしまった。私は精神科医ではないが一生懸命、別室で慰めた。「震災は一時的なものであなたの人生への影響は限定的だし、自分が悪いから起きたのではない。この不運は自分を鍛えてくれるいい試練だと思うようにして下さい。」と、楽観的に生きることの大切さを説いた。1カ月半が過ぎて、やっと落ちついてきたF氏。妻のFさんがF氏から預かったと4月23日と5月1日に、色紙を持ってきてくれた。よそ者扱いしなかった私の事を感謝していると言う。今回の大地震で実に多くのF氏が出来てしまった。多くの方の回復を祈ってやまない。