医療の一形態として「往診」がある。
これは勤務医にはない開業医の特異的な分野である。私は22年前に開業した時に義父がやっていた「往診」を引き継いだ。
当初とても不思議な感覚だった。聴診器1つで勝負するのである。高齢患者は色々な病気にかかる。肺炎、脳卒中、虚血性心疾患、褥創等々。
家人からの訴え一つで即座に判断を求められる。「昨日から何も食べないんです」「反応が悪いんです」「顔色が悪いんです」-これらの訴えは病院内で対応するなら即、CTだとか心電図だとか血液検査だとか手軽に出来る。しかし往診宅には自分1人しかいない。それこそ医師の全能力が瞬時に問われる。点滴で様子を見ていいのか、即、救急病院に送るべきか。
話変わって、先日、松山市内の医師が定期的に集まる勉強会に出た。最後の演題でM先生が「往診で印象に残った症例」と題して講演を行った。内容は80才の老人(男性)の家人から「夕食後、応答がなく眠りこけている」と往診依頼があった由。直ちにポータブル心電図を施行。その後、血圧、脈、聴診、四肢反射等調べたが全く異常がなかった。30分も経った頃、患者が大あくびをして目を覚ました。結局、診断名は「熟睡」であった。会場は爆笑であったが、Dr.はみんなこのように冷や汗をかきながら1人黙々と診療を行っているのです。明日はわが身。がんばらなくては・・・。