江戸時代には「健康」という言葉はなく、健康で長生きする生き方を「養生」と言っていた。そして養生ブームから数々の錦絵が出回った。いずれの絵も体の内部の五臓六腑を示し、細かい文字で病気の注意を記している。この養生文化の先駆けとなったのが今から300年前に出版された貝原益軒の「養生訓」である。今年の第102回医師国家試験にも貝原の名前を問う問題が出題されている。「養生訓」には一つ一つの病気についての記述はなく、どうしたら長生きできるかという、今日流にいえば、予防医学あるいは健康医学の書なのである。益軒は「病(やまい)なき時 かねてつつしめば 病なし」と説いている。「かねてつつしめば」というのが今日の用語でいう「予防」である。4月に始まった「特定健診」に代表されるように、現代医学が健康医学へ大きく舵を切ったことはまさに「歴史は繰り返す」のである。生活習慣病を最初に取り上げた貝原益軒の「養生訓」は日本最初の「健康医学原論」ともいえるのです。 (おわり)