第218話「ロックフォードの野望 謀略の死角」の中で、ローゼン・ザメックがゴルゴに次のような質問をした。「一流のプロ」になるための条件とは?
これに対するゴルゴの答えは「10%の才能、20%の努力、30%の臆病さ、40%の運」であった。私が注目したのは「臆病さ」である。人間はどんな仕事にも慣れてくると臆病でなくなる。そのころに失敗が多い。外科医もそうである。卒後3~4年してくると、虫垂炎いわゆる盲腸のオペも簡単だとうぬぼれてくる。実際にあった話だが、私の先輩(卒後4年目)がバイト先で盲腸のオペを1人で行った。所が虫垂先端が後腹膜に埋没していて取り切れなくなった。そうこうしているうちに麻酔が切れて患者があばれ出し、その際に虫垂動脈を損傷し、腹腔内が血だらけになって救急車で総合病院に運ばれた。今から30年も前の話で、治癒したので訴訟にはならずに済んだ。
もし先輩がいくばくかの臆病さを持っていたらどうだっただろう。きっとオーベン(上の先輩)を連れて行って、安全な手術をしたことだろう。
「臆病さ」はゴルゴの作家「さいとうたかを」氏の人生観だと思う。「臆病さ」は「謙虚さ」とも言い換えられると思う。いつもいつも事に当るときに、新米の時のような謙虚さを持つこと、まさに世阿弥の言う「初心忘るべからず」の境地を大事にしたいと感じているこの頃である。