「肛門鏡検査」としてやっと去年の4月に厚生労働省は診療報酬点数を認めた。裏を返せば、それほど「肛門」は軽視されてきた臓器なのである。肛門について論じることは一般には不浄と考えられる傾向があり、上流社会ではマル秘として扱われ、肛門病に羅患することはあたかも不治の病に身を投じるが如きこととされてきた。
本邦に現存する古来文献において肛門病を扱ったものは極めて少ない。散見するに「瘍科秘録」「要術知新」に刻まれているのみである。
さて肛門を観察するには大腸内視鏡のような軟性鏡では不可能である。なぜなら肛門は空気の挿入程度では容易に拡張することのない構造を有している。肛門の周囲には肛門括約筋という常に便が漏れないように収縮を続ける筋肉が存在する。そのため肛門は柔軟性に富むが、外部の刺激に対して極めて反発的に働くのである。結果、円筒形の肛門鏡が出来上がったのだが、なんと江戸時代の古文書に既に肛門鏡が登場していることは驚きである。当時の西洋ではいまだ完成されておらず、当時の本邦の蘭医学が極めて高いレベルであった証拠品でもある。
みなさん、手遅れにならないよう早目に肛門の診察を受けて下さい。