今回よく分かったのは、まず睡眠時間と総死亡の関係が明らかになったこと。つまり5時間以下の睡眠は7~8時間に比べ高血圧、糖尿病の発症リスクが2倍になるということ。更に短い睡眠は血中のレプチンレベルが低下、グレリンレベルが上がって、結局食欲亢進、ひいては肥満を引き起こすことも分った。若年者にも研究が及び、短時間睡眠(6時間半以下)を続けると、血圧の上昇を認めたデータから、睡眠時間は高血圧の成因となることから、たかが睡眠とあなどってはいけないと思われる。ナポレオンの3時間睡眠は真似してはいけない。
さて睡眠薬には従来、ベンゾジアゼピン受容体作動薬が主流であった。その鎮静、催眠効果は一定の効果があるものの、筋弛緩作用等の副作用が夜間転倒などを引き起こす危険性も指摘されてきた。
今回、従来とは全く違った作用機序で働くメラトニン受容体アゴニストが開発された。メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、体内時計に働きかけることで自然な眠りを誘う作用があります。メラトニンは昼間はほとんど分泌されず、夕方以降暗くなると分泌量が増えて睡眠への切り替えを促します。最近の研究ではメラトニンは、深部体温を下げ眠りを促すこと、夜間の高血圧を低下させること、交感神経の活性を抑制することなども分ってきました。そしてメラトニンは入眠促進作用が主体で、持ち越し効果や反跳性不眠等も見られず、入眠潜時を短縮し禁忌対象がない夢の薬です。
最後に自治医大の苅尾教授の次の言葉が印象的でした。高血圧患者さんには必ず「よく眠れてますか」と聞くこと。睡眠の質と量は特に血圧の管理に重要な因子であり、不眠を見つけたら積極的に介入すべきであると。
さて学会のあと、外科医の長男を赤プリに呼んでラウンジで久しぶりに談笑。その昔、私が悩んだ事を(30年前の記憶を呼び起こしながら)アドバイスした。
医者は何才になってもいくつもの壁があるようです。
「今は執刀に全精力を集中しなさい」と。